耳を鍛える・音をつかむ
実践イヤートレーニング(聴音)
イヤートレーニングとは、音を聴き取り、それを正確に理解する力を養うための練習です。このトレーニングを通じて、音への感度や音楽的な感受性が高まり、音楽をより深く味わいながら楽しむ力が育まれます。 身についた聴き取る力は、演奏技術の向上だけでなく、音楽そのものを理解するための重要な基盤となります。 まず音の高さ(ピッチ)やリズムなどを個別に聴き分ける練習から始め、徐々にそれらを組み合わせた、より複雑な音楽の要素にも挑戦していきます。また、音楽理論(セオリー)の知識と組み合わせることで、聴いた音をより深く分析し、実践に活かせるようになります。 クラシック音楽を学ぶうえでは、楽譜を正しく読む力・読み解く力が重視されますが、それと同じくらい大切なのが「耳で聴く力」です。実際の演奏をライブや録音で聴き、音程やリズム、強弱、表現のニュアンスを感じ取ることで、楽譜だけでは得られない深い理解が生まれます。耳から得られる情報は、演奏者としての直感や音楽的な洞察をより豊かにしてくれるのです。 ジャズを学ぶ際には、先人の演奏したソロを耳で聴き取り、それをコピーする学習法がありますが、これはイヤートレーニングの実践例とも言え、訓練の成果を活かす場面です。また、即興演奏や作曲の際には、頭の中に浮かんだ音楽のアイデアを聴き取り、具体的な形にする技術が求められます。これはまさに「自分の内なる音を聴く=キャッチする」力であり、即興演奏や作曲において非常に重要なスキルです。 さらに、イヤートレーニングによって、耳で聴いた音楽を譜面として書き起こす力も身につきます。これにより、市販されていない楽曲の譜面を自分で作成したり、オリジナルのアレンジを加えたりすることが可能となります。 イヤートレーニングは、演奏技術や音楽的理解を深めるだけでなく、自分自身の音楽表現の幅を大きく広げてくれる、実に奥深く価値ある学びなのです。
イヤートレーニングアプローチ
イヤートレーニングでの実際のアプローチをご紹介します。
レッスンでは下記に紹介するアプローチを組み合わせて進行します。

リズミック・ディクテーション(リズムの聴き取り)
基本的な音符の種類(音の長さ:音価といいます)やリズム(音価の組み合わせともいえる)を聴き取り、それを正確に譜面へ書き取る練習です。 拍子の感覚やリズム感を育てる基礎的なトレーニングとして重要です。 アプローチ:まずは四分音符・八分音符・休符などの基本的な音符の種類と、その組み合わせによるリズムパターンをシンボル(記号)として視覚的に学び、それらを手拍子やボディーパーカッション、声、楽器を使って、実際の音と関連付けながら体感的に学びます。その後、実際に提示されたリズムを聴いて譜面に書き起こす練習へと進み、2小節程度の短いフレーズから徐々に応用力を高めていきます。
インターバル(音程の認識)
「音程(インターバル)」とは、つの音の間隔を指します。この音程を聴き分ける力を養うことは、イヤートレーニングの中核をなすスキルであり、メロディやハーモニーを正確に聴き取り、理解するための重要な基礎となります。 アプローチ:ピアノや音源で鳴らされた2音を聴き取り、それがどの音程か(例:完全5度、短3度など)を言葉で答える練習を行います。2音は「順に鳴らす(旋律的)」場合と、「同時に鳴らす(和音的)」場合があり、どちらの聴き分けも行います。まずはよく使われる音程から始め、段階的に幅広いインターバルに対応できる耳を育てます。
コード・クオリフィケーション(コードタイプの識別)
メジャー、マイナー、ドミナント、ディミニッシュ、オーグメント、およびセブンスコードなどのベーシックなコードを聴いて、コード・クオリティを判別する耳を育てます。 このスキルはハーモニック・ディクテーションに応用される重要な基礎となります。 アプローチ:メジャー、マイナー、ドミナントセブンスなどの代表的なコードを繰り返し聴き、その響きの特徴を耳と感覚でつかんでいきます。たとえば「明るく安定した響き=メジャー」「暗く落ち着いた響き=マイナー」「不安定で解決を要求する響き=ドミナント7th」といった具合に、印象を言語化して記憶に定着させます。聴き分けに慣れてきたら、より複雑なコードにも挑戦していきます。
アドバンスト・コード・クオリフィケーション(テンション音の聴き取り)
ジャズなどに頻出する、9th、11th、13thなどのテンション音を聴き取り、それが加えられたコード、およびボイシング(コードの配列)の響きを識別する耳を育てます。 より豊かなハーモニーを聴き取るためのより高度なイヤートレーニングです。 アプローチ:まず、基本的なコードにテンション音(例:9th, ♭9, ♯11, 13thなど)が加えられた場合の響きの変化を、1音ずつ確認しながら聴き比べます。その後、複数のテンションが含まれる複雑なコード(例:C13、G7(♭9,♯11)など)の聴き分けにも挑戦します。「浮遊感が増す」「緊張感が強まる」など、耳で感じた印象を言語化することで識別力を高め、より正確にテンションを聞き分けられるようにします。
メロディック・ディクテーション(メロディ:旋律の聴き取り)
4~8小節程度の短いメロディを聴き取り、その音の高さ(ピッチ)や長さ(音価)、そしてそれらの組み合わせによるリズムを正確に譜面に書き起こすイヤートレーニングです。一般に「聴音」と言うと、これを指すことが多く、音楽教育の基本的な訓練の一つとされています。 これは、「リズミック・ディクテーション」や「インターバル」の応用・発展形として位置づけられ、音楽を総合的に聴き取る力の向上を目指します。 アプローチ:まずは2〜8小節程度のシンプルな旋律を耳で聴き、それを五線譜に書き起こす練習から始めます。慣れてきたら、複雑なリズムや音域の広いメロディ、より長いフレーズへと段階的に進みます。旋律を記憶する力と、聴いた音を素早く書き起こす力を同時に養うことで、実践的な音感と楽譜理解力が高まります。
ハーモニック・ディクテーション(ハーモニー:和声の聴き取り)
複数の声部(ソプラノ、アルト、テノール、バス)が同時に奏でる和声を耳で聴き取り、それぞれの旋律を譜面に書き出すトレーニングです。各声部の旋律は、和音を構成する音=コードトーンから成っており、メロディとして機能しながらも全体でハーモニーを形づくっています。 この訓練を通じて、実際のコード進行を聴き取る耳が育ちます。 アプローチ:まずは2声(例:ソプラノとバス)のハーモニーから始め、徐々に3声、4声(SATB:ソプラノ、アルト、テノール、バス)へと発展させます。ピアノまたは録音された音源を用いて、各声部の動きを耳で聴き取り、五線譜に書き出す練習を行います。書き取った各声部の旋律から構成される和音をコードネームとして判別・記述することで、コード・クオリフィケーション(コードタイプ識別)と連動させた学習が可能です。これにより、聴きとった和音(コード)および和声(ハーモニー)の構造を理解しながら、理論と実践をつなぐ力が身につきます。
ダイナミクス(音量の変化:音の強弱の聴き取り)
演奏の中に現れる音量の変化(強弱)を聴き取り、そこに込められた表現や意図を読み取る力を養います。「 (ピアノ=弱く)」や「 (フォルテ=強く)」、クレッシェンド(だんだん強く)、ディクレッシェンド/ディミニュエンド(だんだん弱く)といった音の流れを耳で捉える訓練です。
アプローチ:4~8小節程度の曲を聴きながら、どの部分で音量がどのように変化しているかを注意深く聴き取り、「強くなっている」「弱くなっている」「突然強くなった」などの感覚を言語化・記録します。また、変化の流れを視覚的に捉えるため、音量の増減を図にして表す練習も行います。これにより、音楽的なダイナミクスに対する感受性が養われ、演奏表現の幅が広がります。
アーティキュレーション(音楽表現の聴き取り)
音と音とのつながり方、あるいは切り方を聴き取り、それを演奏表現に活かす感覚を育てます。アーティキュレーションとは、スタッカート(音を短く切る)、スラー(音を滑らかにつなげる)など、音の発音の仕方や音符と音符の関係性を示す記号や表現を指します。 これらを正確に聴き分けることで、音楽のフレージングやニュアンスに対する理解が深まります。 アプローチ:4~8小節程度の曲を聴きながら、スタッカートやスラーといった異なるアーティキュレーションの特徴を耳で聴き分け、口述又は記述する練習を行います。加えて、実際に歌唱やピアノで模倣することで、聴き分けた違いを身体で体感しながら学びます。聴覚と身体感覚を連動させることで、より豊かな表現力を養います。