コンピング (Comping)
ジャズピアノにおけるコンピングとは、ピアノによる伴奏を指します。
コンピングは、ピアニストにとってソロ演奏と並ぶ重要な役割です。トランペットやサクソフォンなどのフロント奏者のソロを支える場面に加え 、リズムセクション内ではベースを伴奏する場面があり、伴奏の対象は多岐にわたります。さらに、自分がソロを取る際や、ピアノトリオのような編成では、左手で自らのソロラインを支える伴奏を行います。
ジャズの伴奏は、多くの場合、詳細な楽譜ではなく、コード進行を基に行われます。そのため、何を弾くか、いつ弾くか、どのように弾くかは、その場の音楽的状況に応じて判断されます。この判断の違いが、ピアニストのスタイルや個性を形づくります。ペンテリネアでは、コンピングを次の四つの要素から学びます。
リズム (Rhythm)
リズムという観点からコンピングを考えることは、きわめて実践的です。まず重要になるのが、コンピング・ヒット (Comping Hit) の位置です。コードを拍の前 (Before the Beat)、拍の上 (On the Beat)、拍の後 (After the Beat) のどこにヒットさせるかによって、音楽の推進力は大きく変わります。
さらに重要になるのが、コンピング・リズム (Comping Rhythm) です。シンコペーションやアクセントを組み合わせてリズムを設計することで、アンサンブルのグルーブ感を支えます。ペンテリネアでは、任意の位置にコードをヒットできるようにするための練習と、スイング感を伴ったコンピング・リズムを提供できるようにするための練習を行います。
ハーモニー (Harmony)
II–V–I・コードパターン (Chord Pattern)
ジャズピアノにおいて、即興演奏と並ぶ重要な要素がコンピングです。
コンピングとは、ピアノ、ギター、オルガン、キーボードなどの和音楽器 (Polyphonic/Harmonic Instruments)によるジャズ伴奏を指します。ピアニストはリズムセクションの一員として、アンサンブル全体にハーモニーとリズムの土台を与えます。ジャズの伴奏は、単にコードを弾く作業ではありません。
同じコード進行であっても、
➤どのタイミングで和音を入れるか
➤どのボイシングを選ぶか
➤どのようなリズムで弾くか
によって、音楽の印象は大きく変わります。
両手ボイシング構造 (Two-Hand Voicing Structure)
両手ボイシングは、二層構造として理解します。左手は下部構造 (Lower Structure)、右手は上部構造 (Upper Structure) として扱います。下部構造にはガイド・トーン (Guide Tone) が含まれ、その和音の種類を特徴づける要素が含まれます。上部構造 (Upper Structure) にはテンション・ノートが含まれ、コードに豊かな色彩を与えます。
左手で弾く下部構造コード (Lower Structure) に含まれるボイシングは、以下のとおりです。
➤基本和音 (Basic Chord)
➤シェル (Shell)
➤スケルトン (Skeleton)
➤ガイド・トーン (Guide Tone)
➤フォーウェイ・クローズ (Four-way Close)
➤クォータル (Quartal)
➤クラスター (Cluster)
右手で弾く上部構造コード (Upper Structure) に含まれるボイシングは、以下のとおりです。
➤アッパー・トライアド (Upper Triad)
➤アッパー・セブンス (Upper Seventh)
➤アッパー・スケルトン (Upper Skeleton)
➤アッパー・クォータル形 (Upper Quartal Shape)
➤アッパー・オクターブ形 (Upper Octave Shape)
➤アッパー・クラスター形 (Upper Cluster Shape)
これらの上下構造を組み合わせることで、さまざまなボイシングの響きを作ることができます。
多様な組み合わせによってコード進行を練習します。
また、『シアリング・ボイシング』『ドロップ・ボイシング』『ソー・ワット・ボイシング』のように、主として両手で扱われ、独特の響きを持ち、上下構造の組み合わせ以上に、構成音のレイアウトによって生まれるコードの響きそのものに主眼が置かれるボイシングについても学びます。
メロディ要素 (Melodic Elements)
コンピングは、単なる和音の連続ではありません。伴奏の中には旋律的な動きが含まれています。ここでは、ボイス・リーディング (Voice Leading) とモーション (Motion) を扱います。
ボイス・リーディングとは、隣接するコード間において、より近い和音構成音 (コード・トーン) へ移行できるよう、適切なコードの展開形 (Inversion) を選択し、和声進行における横の流れを滑らかに導くための考え方です。
モーションとは、和声進行における上部音と下部音の進行関係を捉えた概念であり、コントラリー (Contrary Motion) は反対方向に動く進行、シミラー (Similar Motion) は同方向に動く進行、パラレル (Parallel Motion) は音程関係を保ったまま同方向に動く進行、オブリーク (Oblique Motion) は片方が留まり、片方が動く進行を指します。
こうした横方向の整合性、すなわち連続するコード上に現れる旋律的要素を伴奏へ適用することで、流れの滑らかなコンピングを形づくることができます。
インタラクション (Interaction)
ジャズの伴奏は、楽譜に細かく書かれているわけではなく、コンパー (伴奏者) がコード・チェンジ (曲中のコード進行) を踏まえながら、アンサンブル内のコミュニケーションを通して自ら設計していきます。このようなプレイヤー間の相互作用をインタラクションといい、即興的な側面の強いジャズ演奏を成立させる重要な基盤となります。
インタラクションは、ソロイストが自らのアイディアを最初に提示するイニシエーション (起こり・開始) と、それを受けてコンパー (伴奏者) が自らの演奏を調整しながら応答するリアクション (反応・呼応) によって成り立ちます。ただし、伴奏者はコンピングを通してソロイストに音楽的な提案を行う側面を持つため、イニシエーションとリアクションは固定的に分かれるのではなく、演奏の中でダイナミックに入れ替わります。ペンテリネア音楽学校では、この往復関係を理解し、実際の演奏へ結びつける観点から練習を行います。
インタラクションには、次のような側面があります。
➤ ソロラインに使われた音、リズム、シェイプ、フレーズの流れ、音の方向、提示されたモチーフを聴き取り、それに応答すること、あるいは逆に伴奏をソロイストが聴き取り、ソロの内容を変化させていくという定性的 (Qualitative) な側面
➤ 音数の多さやリズム形状の複雑度などから成る演奏全体の密度に応じて、自分が提供する伴奏の密度を調整するという定量的 (Quantitative) な側面
➤ 通例的に演奏されてきたフレーズやリズム、引用 (Quotation) など、ジャズ文化の知識に根差した文化的 (Cultural) な側面
インタラクション力を磨くためには、相手が提示したイニシエーションの内容と方向性を洞察し、相手が何を求めているか、そこへ到達させるために何を提供すべきか、さらに演奏全体の流れをどのように支えていくかを的確に見極めることが重要であり、その前提として洞察力が必要になります。ペンテリネア音楽学校では、ソロイストの音を聴き取る練習を通してその内容を的確に捉え、リズムおよびハーモニーの練習で培った技術を用いながら、音楽的に適切に返す力を身につけ、インタラクションの観点からコンピングを学びます。