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コンクリートの壁に影

現代のレッスンにおける新たな学習メソッドの活用

現代のレッスンにおいては、パフォーマンス(演奏技術)、ソルフェージュ(音感)、セオリー(音楽理論)など、さまざまな部分で学習の方法や教材が大きく変化・進化し、また多様化しています。当スクールでは、長い歴史の中で培われた伝統的な教育メソッドを基盤としつつ、最新の国際的メソッドや、従来の方法をさらに効果的にアレンジした手法を積極的に取り入れています。これらの取り組みを通して、生徒の皆さまの音楽的な表現力や理解力を高め、感受性を豊かに育むと同時に、音楽を心から楽しむ力を身につけていただく事を目標としております。

メソッド・トップ
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ソルフェージュ(音感)

パフォーマンス(演奏技術)

セオリー(音楽理論)

当校では、音楽における音の認識力を育み楽譜を正確に読み演奏する力を養うためソルフェージュを《聴音》と《新曲視唱》という二つの柱を中心に指導しています。

現代では初心者向け教材の選択肢の幅が広がりまた、多様な指導法が確立されてきました。当スクールでは、それら新しいメソッドを導入する事で、従来の学習プロセスを補いながら、実践的なレッスンを行っています。

理論を学び、それを演奏に生かすことで、自由かつ創造的に音楽を表現できる力を育むため、当スクールでは実践的な指導を行っています。

海洋

パフォーマンス(演奏技術)

現代では、初心者向けのピアノ教材の選択肢が広がり、より効果的な初心者、中級者のための導入指導法が確立されてきました。バスティン、ジョン・トンプソン、ファーバーなどの教材が広く知られており、それぞれ異なるアプローチを持ちながらも、初心者が無理なく楽器演奏を習得できるよう工夫されています。プレリーディングメソッドやコード譜(リードシート)を活用した、こうした新規の指導法は従来の学習プロセスを補いながら、より実践的で現代的なレッスンへと発展しています。

技術メニュ
島の上空からの眺め

楽譜がよめなくても弾ける?:プレリーディング譜での学びと利点

プレリード
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右手指番号&鍵盤.JPG

ピアノを演奏するためには、楽器を弾けるようになること、そして楽譜を読めるようになることの両方が必要です。しかし、楽譜を読む力を身につけるには時間がかかるため、初心者の方が「楽譜が読めないから演奏できない」と感じることも少なくありません。 こうした課題を解決するために、プレリーディングという手法が活用されています。プレリーディングを取り入れることで、楽譜を完全に読めるようになる前から曲を弾くことができ、初心者でもすぐに演奏の楽しさを実感できます。 プレリーディング譜は、指番号と音名(どの鍵盤を弾くか)、そしてリズムを中心に構成された楽譜です。五線譜を読む練習と併用することで、無理なく通常の楽譜へ移行できるようになっています。最初にこの方法を取り入れることで、初心者でもスムーズに演奏を楽しみながら、少しずつ楽譜を読む力を養うことができます。 当スクールでは、市販のプレリーディング教材を活用するとともに、より多くの曲を学べるよう、独自に制作した教材を使用しています。演奏技術と読譜力を無理なく身につけられるアプローチにより、初心者でも自信を持って音楽を楽しめるよう指導を行っています。

右手指番号・キーボード

プレリーディング譜 (Pente Linea)

『よろこびの歌:シンフォニー第九番』

右手指番号・ト音譜表

コード譜

コードのよみかたを学ぼう:コード譜とリードシートを用いての演奏

ピアノ演奏においては、一般的に「ト音記号」で表される高音部譜表と「ヘ音記号」で表される低音部譜表を組み合わせた「大譜表」を用いるのが基本ですが、それとは異なるアプローチとして、コード譜表を用いた演奏方法があります。 左手部分(通常はヘ音譜表に該当)をコードとして表記した楽譜は、リード譜表またはリードシートと呼ばれます。これは、左手の伴奏部分を低音部譜表の代わりにコード(和音)として示すもので、コード譜を使うことにより、左手の演奏を自由にアレンジすることが可能となります。より柔軟で創造的な演奏ができるため、ブルースやジャズ、ポップスの分野では古くから用いられ、近年では教育の現場にも広く取り入れられています。 クラシック音楽においては、バロック時代の通奏低音のような例外を除けば、即興演奏の土台となるリード譜は、もともとストリート音楽やポピュラー音楽、すなわち大衆向けの音楽において発展してきました。現存する最古のコード譜は、1840年代のミンストレル・ソング楽譜や、1860年代のスティーブン・フォスターによる楽譜にまでさかのぼることができます。これらは通常、ピアノ演奏を想定しており、ヘ音譜表とコードネームが併記されていました。 一方で、バンジョーやギターといった弦楽器向けに作られた楽譜も存在し、ウクレレ用のリードシートも確認されています。これらの楽譜にはヘ音譜表が含まれておらず、コード進行が簡潔に記されている点に特徴があり、現在一般的に用いられているリードシートの形式に非常に近いものとなっています。そのため、演奏者はコードを手がかりに、即興で伴奏をつけることが可能となっています。 20世紀に入ると、バークリー音楽大学(旧称: シリンジャー・ハウス)の創設者であるローレンス・バークが、音楽理論家ジョセフ・シリンジャーに師事し、そこで学んだ理論を取り入れることで、コード譜の概念に新たな展開をもたらしました。 シリンジャーはロシア帝国(現在のウクライナ・ハルキウ)出身で、数学的な視点から音楽を体系化し、独自の作曲システムを築いた教育者でした。彼の理論は、従来のクラシック音楽の和声学とは一線を画し、音楽を数学的および幾何学的な視点から捉え、和声やメロディの構造を規則的なシステムとして理解しようとするものでした。特に即興演奏や作曲において、このアプローチを積極的に取り入れました。 ローレンス・バークは、このシステムをコード進行に基づいた演奏へと応用する道を開きました。こうしてコード表記の可能性が広がり、より複雑な和声を記述し、その流れを体系的に扱えるようになったことで、ジャズやポピュラー音楽の発展に大きく寄与したのです。*ただし、シリンジャー・システムではコード表記は使われません。 *バークリー・メソッドの起源、およびその発展に関する歴史的経緯をPDFにまとめました。 下記のURLからダウンロードできます。 コード譜を用いることで、ヘ音譜表を読まずとも両手での演奏が可能となることから、ピアノ初心者への指導法の一つとして位置づけられ、広く活用されています。 また、ハーモニーの流れやメロディとの関係を視覚的に理解しやすいという特性から、セオリー(音楽理論)やソルフェージュの学習においても、コードを用いたアプローチが積極的に取り入れられています。 バスティン、ファーバー、ジョン・トンプソンなどの教材では、初期の段階からコード譜を学ぶことが自然な流れとなっており、基礎から実践へとスムーズに移行できるよう工夫されています。 当スクールでは、コード譜の読み方やそれに基づいた演奏を、初期の段階から指導しています。これはジャズやポップスの生徒に限らず、クラシックを学ぶ生徒にとっても有益であり、ハーモニーの流れや伴奏の音型を深く理解することにつながります。こうした現代的なアプローチを取り入れることで、生徒一人ひとりがより自由に音楽を表現できるよう指導を行っています。

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「バークリーメソッドとシリンジャーシステム: その歴史的背景と理論的発展」(PDFファイル)

『バークとシリンジャー』

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左手指番号・ヘ音譜表

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プレリーディング譜 (Pente Linea)

『よろこびの歌:シンフォニー第九番』

理解と判断

理解と判断に基づく表現力を育てる三つの柱

当スクールの演奏指導では、「どう弾くか」だけでなく、「なぜそう弾くのか」まで理解した上で演奏することを大切にしています。 音楽は感覚だけで成り立つものではなく、理解と判断を積み重ねることで、はじめて説得力のある表現になります。 そのために、エチュード、バッハ作品、メイン楽曲の三つを同時に学びます。 エチュードでは、指の動きや音のつながりなど、演奏に必要な基礎的なテクニックを整えていきます。 バッハ作品では、複数の声部を意識しながら弾くことで、音楽がどのように組み立てられているのかを体感的に学びます。 メイン楽曲では、こうした技術や理解をまとめ上げ、作品や作曲家の個性を踏まえた表現へとつなげていきます。 レッスンでは、楽譜を一緒に見ながら、「なぜここはこう弾くのか」「この音にはどんな意味があるのか」を丁寧に確認していきます。講師からの指示をそのまま真似るのではなく、理由を理解し、納得したうえで演奏することを重視します。 対話を重ねながら進めることで、曲の理解だけでなく、音楽の考え方そのものを身につけていきます。 レパートリーは、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン、ブラームス、ショパン、ドビュッシー、ラベル、ハチャトゥーリアンなどを中心に、一人ひとりの成長に合わせて選びます。無理のない選曲によって、技術・理解・表現が自然につながり、学びの効率も高まります。あわせて、それぞれの時代や作曲家に合った、適切な演奏のしかたも学びます。 最終的な目標は、生徒自身が楽曲を読み取り、自分で考え、判断しながら演奏できるようになることです。 この考え方は特定の段階だけのものではなく、当スクールのすべてのプログラムに共通する基本姿勢です。

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ソルフェージュ(音感)

ソルフェージュは、耳で聴いた音を正しくとらえ、譜面に書き起こしたり、初見の楽譜を正確に歌う力を高めるための音感トレーニングです。音楽をより深く理解し、技術だけでなく表現力の向上にもつながります。当校では音楽における音の認識力を育み、楽譜を正確に読み演奏する力を養うため、サイトシンギング(新曲視唱)とイヤートレーニング(聴音)という二つの柱を中心に指導しています。​

スラスラ読める・調に強くなる:移動ド式サイトシンギング

ソルフェージュにおいて、楽譜を読みながら歌う練習は日本では「新曲視唱」と呼ばれ、英語では「サイトシンギング」といいます。これは、私たちにとって最も身近な楽器である「声」を用い、その場で楽譜を読み取る能力を鍛える練習であり、歌手のみならず、さまざまな楽器演奏者にとっても、楽譜を読む力を養うための重要な訓練として広く取り入れられています。 その中でも、日本ではこれまであまり重要視されてこなかったソルフェージュ学習の一つに、「移動ド式」のサイトシンギング(新曲視唱=楽譜を読みながら歌うこと)が挙げられます。この方法は、伝統的な「固定ド」方式に比べ、メロディの構造や性質を深く理解し、さまざまな調で自由に演奏する能力を育む点で優れており、実践的な音楽活動において大きな利点をもたらすことが特徴です。 たとえば、クラシック音楽では、同じか、又は類似したメロディが転調(modulation)して登場することがありますが、移動ド式を習得していれば、調号(key signature)に惑わされることなく、メロディそのものを正確に把握できます。また、ジャズ演奏では、楽曲を別の調で演奏するために移調(transposition)することが頻繁に求められます。このような場合でも、移動ド式で培った能力が大きな助けとなります。 このように、移動ド方式のソルフェージュは、音楽理論と実践的な演奏をスムーズに結びつけ、総合的な音楽能力を向上させるうえで非常に効果的なのです。

新曲視唱および「移動ド」式サイトシンギングに関してはこちらから

耳を鍛える・音をつかむ:実践イヤートレーニング(聴音)

イヤートレーニングとは、音を聴き取り、それを正確に理解する力を養うための練習です。このトレーニングを通じて、音への感度や音楽的な感受性が高まり、音楽をより深く味わいながら楽しむ力が育まれます。身についた聴き取る力は、演奏技術の向上だけでなく、音楽そのものを理解するための重要な基盤となります。 まず音の高さ(ピッチ)やリズムなどを個別に聴き分ける練習から始め、徐々にそれらを組み合わせた、より複雑な音楽の要素にも挑戦していきます。また、音楽理論(セオリー)の知識と組み合わせることで、聴いた音をより深く分析し、実践に活かせるようになります。 クラシック音楽を学ぶうえでは、楽譜を正しく読む力・読み解く力が重視されますが、それと同じくらい大切なのが「耳で聴く力」です。実際の演奏をライブや録音で聴き、音程やリズム、強弱、表現のニュアンスを感じ取ることで、楽譜だけでは得られない深い理解が生まれます。耳から得られる情報は、演奏者としての直感や音楽的な洞察をより豊かにしてくれるのです。 また、ジャズを学ぶ際には、先人の演奏したソロを耳で聴き取り、それをコピーする学習法がありますが、これはイヤートレーニングの実践例とも言え、訓練の成果を活かす場面です。 さらに、即興演奏や作曲の際には、頭の中に浮かんだ音楽のアイデアを聴き取り、具体的な形にする技術が求められます。これはまさに「自分の内なる音を聴く=キャッチする」力であり、即興演奏や作曲において非常に重要なスキルです。 さらに、イヤートレーニングによって、耳で聴いた音楽を譜面として書き起こす力も身につきます。これにより、市販されていない楽曲の譜面を自分で作成したり、オリジナルのアレンジを加えたりすることが可能となります。 イヤートレーニングは、演奏技術や音楽的理解を深めるだけでなく、自分自身の音楽表現の幅を大きく広げてくれる、実に奥深く価値ある学びなのです。

聴音および実践的イヤートレーニングに関してはこちらから

セオリー(音楽理論)

セオリー(音楽理論)を学ぶ理由は何でしょうか。
演奏するために、あえて理論を学ぶ必要があるのかと感じる方もいるかもしれません。
しかし、音楽セオリーは決して机上の空論ではなく、演奏や表現から切り離された存在ではありません。音楽を理解し、判断し、表現するための道具として、理論は私たちの演奏に寄り添います。

雲間の虹

コミュニケーションツールとしての音楽セオリー

セオリー(音楽理論)とは、つまるところコミュニケーションのためのツールです。 楽譜と向き合い、そこに書かれた音や記号から音楽を読み取るための対話。 作曲家がなぜその音をここに置いたのかを考え、その意図に耳を傾けるための対話。 そして、自分はどう演奏したいのか、どのような音楽を立ち上げたいのかを自分自身に問いかけるための対話。その問いを立てたうえで、自分はどう演奏したいのかを、音を通して投げかけることができます。 もし作曲家が横に座っていたら、どんな会話になるでしょうか。 そのような想像を可能にしてくれるのが、音楽セオリーです。 また、ジャズやポップスを演奏する場合、リード譜やコード譜から音楽を創り出す過程において、音楽セオリーは欠かせません。 どのコードを、どのタイミングで、どのボイシングで弾くのか。 アドリブ(その場での作曲)では何を選び、どのようにフレーズを発展させていくのか。 これら演奏上の判断を支えているものこそが、音楽セオリーです。 このとき、あなたの横に座っているのは、あなた自身です。 音楽セオリーは、自分自身との対話のためのツールでもあります。

現代の音楽教育における音楽セオリーの立ち位置とは

音楽セオリーには、さまざまなレベルがあります。 楽譜を読むために必要なベーシックセオリーには、音の名前、コード(和音)の種類、調号(何調か)、音価とリズム、強弱や表現記号、反復記号などが含まれます。 さらに、演奏している曲をより深く理解するための分析セオリーや、創造的に音楽を表現するための作曲セオリーもあります。 これらには、メロディの形状、ハーモニー(和声)の機能と流れ、コード、ボイシングなどが含まれます。 近年の音楽教育では、これらの知識は単なる机上のものではなく、自らの表現を追求するための手段として位置づけられるようになってきました。 単に指示どおりに演奏するのではなく、音楽やそのスタイルを理解し、楽譜を多角的に考察しながら、自分自身の解釈と自発性を育てることが重視されています。 当スクールでは、この考え方を基盤とし、プライマーからビギナー、アドバンスレベルまで、セオリーを実際の演奏に結びつけながら学べる指導を行っています。

クラシック、ジャズ・ポップスに共通するセオリー:機能和声とは何か

クラシック、ジャズ、ポップスというジャンルは、表面的なスタイルや演奏法こそ異なりますが、その多くは共通する和声的な原理の上に成り立っています。その中心にある考え方が、**機能和声(Functional Harmony)**です。 機能和声とは、和音(コード)を単体として捉えるのではなく、音楽の中でどのような役割(機能)を果たしているかという観点から理解するための理論です。西洋音楽においては、主に以下の三つの機能が音楽の流れを支えています。 トニック(Tonic):安定・帰着点 ドミナント(Dominant):緊張・解決への指向 サブドミナント(Subdominant):展開・移行 これらの機能の相互関係によって、音楽は「始まり、動き、そして終わる」という方向性を持ちます。ジャンルが異なっても、「なぜその和音がそこに置かれているのか」「なぜ次にその和音へ進むのか」という根本的な論理は、多くの場合この機能和声によって説明することができます。 クラシック音楽では、機能和声は対位法や声部進行と密接に結びつき、横の流れ(時間的な進行)の中で厳密に扱われてきました。一方、ジャズやポップスでは、コード記号によって縦の構造(和音そのもの)が明示され、その上で演奏者がボイシングやリズム、メロディを即興的に構築していきます。しかし、どちらの場合でも、和声の機能そのものが失われているわけではありません。 たとえば、ジャズにおける II–V–I 進行や、ポップスに頻出する循環コードも、機能和声の観点から見れば、緊張と解決の関係として明確に説明することができます。スタイルが違っても、音楽が「前に進んでいる」と感じられる理由は、共通する和声的機能に支えられているのです。 当スクールでは、クラシック・ジャズ・ポップスを分断された別物として扱うのではなく、機能和声という共通言語を軸に、それぞれのジャンルを理解していきます。そうすることで、ジャンルを越えて応用可能な判断力を身につけ、演奏や分析、即興においても一貫性のある音楽的選択ができるようになることを目指しています。

深層に横たわるアイデアを見通す分析の目:シェンカー理論

シェンカー理論は、実際のレッスンにおいて「なぜその音が重要なのか」「なぜそのフレーズが説得力を持つのか」を説明するための、分析的な思考ツールとして活用されます。 演奏をただ感覚的に良くするのではなく、音楽の構造を理解したうえで、妥当性のある判断を行うための理論的な支えとなる考え方です。 過去に提唱され、日本では十分に紹介されてこなかった音楽理論・メロディ/楽曲分析の一つに、「シェンカー理論」があります。 この理論は、音楽の流れを微視的(microscopic)および巨視的(macroscopic)の両方の視点から捉え、そのフラクタル的(自己相似性)なつながりを明らかにしようとする分析手法です。 シェンカー理論は高度な理解と訓練を要する理論である一方、演奏や分析の現場では、私たちが日常的に無意識のうちに行っている音楽的判断を、構造として明文化したものとも言えます。当スクールでは、演奏上の改善点を示す際の理論的な根拠として、この考え方を適切に用いていきます。理論を知識として学ぶのではなく、実践に応用するためのものとして扱います。 シェンカー理論は、西洋音楽作品がどのようにして一つの結論へと収束していくのか、その内在的な論理を明らかにするための分析理論です。 この理論では、音楽を表層・中層・深層という複数の階層に分けて捉え、実際に鳴っている音の背後にある構造を段階的に整理していきます。 深層(background)では、小節数や拍といった具体的な時間的単位は消去され、旋律の下行線(Urlinie)と低音の基本進行によって示される、最も単純化された根本構造のみが扱われます。ここで示される構造は、音楽の「最後のケーデンス」を中心とした関係性であり、数や長さでは測れないものの、始まりから解決へと向かう明確な方向性を内包しています。 中層(middleground)は、この深層構造が実際の音楽の中でどのように引き延ばされ、回避され、準備されているのかを示す層です。表層に現れる多くの音を整理し、どの音が構造を支える核となる音であり、どの音がそれを装飾・延長しているのかを見極めていきます。分析において最も多くの紙面を必要とするのがこの中層であり、音楽の論理が最も具体的に可視化される部分でもあります。 表層(foreground)は、私たちが実際に耳にする音楽そのものです。リズム、音価、フレーズ、アーティキュレーションなど、すべての具体的要素はこの層に属します。シェンカー理論は表層を否定するものではなく、むしろ表層に現れる多様な出来事が、どのような構造的必然性のもとに配置されているのかを理解するための視点を提供します。 この理論の目的は、曲中から特定の音を機械的に抜き出すことではありません。作品全体を最も整合的に説明できる構造仮説を立て、その仮説が表層・中層の分析によって一貫して支持されているかを検証することにあります。その結果として、なぜ途中で終わったように聴こえるのに音楽が続くのか、なぜ同じ音型が何度も現れるのかといった問いに対して、構造的な説明が可能になります。

シェンカー理論のジャズ即興への応用

シェンカー理論は、もともとクラシック音楽、とりわけ調性音楽を分析するために提唱された理論ですが、その考え方はジャズにも応用することができます。ただし、これはクラシックの分析手法をそのままジャズに当てはめるという意味ではありません。 ジャズにおいて重要なのは、スケールやモード、アルペジオ、旋律パターンを並べることそのものではなく、それらをどのように組織し、時間の中で意味のある流れとして提示するかという点です。即興演奏とは、その場で行われる即興的な作曲であり、そこには必ず「何を延長し、何を装飾し、どこへ向かっているのか」という構造的判断が含まれています。 シェンカー理論における中層的な視点、すなわち構造音と装飾音の区別、prolongation(延長)や diminution(縮減)といった考え方は、ジャズの即興演奏において非常に有効です。多くの音を弾いているように見えるフレーズの中から、どの音がフレーズの核となっているのかを見極めることで、演奏はより整理され、説得力を持つようになります。 また、同じコード進行の上で演奏されるフレーズが、なぜ「前に進んでいるように聴こえる」のか、あるいは「まだ終わっていない」と感じられるのかを理解する上でも、構造的な視点は重要です。これは、最終的な解決を常に先送りしながら音楽を構築するジャズの語法と、シェンカー理論が扱う「延長」という概念が深く関わっているためです。 シェンカー理論をジャズ分析に応用した代表的な研究として、スティーヴン・ラーソンによるAnalyzing Jazz: A Schenkerian Approach(2009年、Pendragon Press)があります。本書では、ビル・エヴァンスやチャーリー・パーカーの演奏を題材に、ジャズにおける旋律と和声の深層構造が丁寧に分析されています。クラシックとジャズを架橋する試みとして、演奏家や理論家、教育者から高く評価されている研究です。 当スクールでは、シェンカー理論をジャズの分析や演奏に直接当てはめるのではなく、旋律を構造的に捉えるための思考ツールとして活用しています。どの音を本当に大切にすべきか、どの音がそれを彩っているのかを判断する力は、コピーやパターン練習を超えた、自由で一貫性のある即興演奏へとつながっていきます。

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