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スラスラ読める・調に強くなる:移動ド式サイトシンギング

新曲視唱(サイトシンギング)では、通常「固定ド」という考え方を用いて学びます。固定ド方式では、ピアノの鍵盤上で2つの黒鍵と3つの黒鍵のグループに分かれている中で、2つの黒鍵の左隣にある白鍵(Cの音)を常に「ド」として扱います。この方法では、どの調でも「ド」が物理的に固定された音を指し、音名としての「ド」が絶対的な基準音となるのが特徴です。英語では、この方式を "Fixed (固定された) Do (ド)" と呼びます。

C major Scale.png
1. C major Scale Staff.png

一方で、「移動ド」という概念があります。これは、各調のメジャースケール(長音階)において、7つの音からなるスケールの最初の音(基調音)を「ド」と見なす考え方です。たとえば、ト長調(G major)では「ド」はト音(G)、ヘ長調(F major)ではヘ音(F)、変ロ長調(B major)では変ロ音(B)、ハ長調(C major)ではハ音(C)にあたります。

この最初の音は、音楽理論において「基調音(tonic)」または広義には「トーナルセンター(tonal center)」と呼ばれ、調の中心となる音として位置づけられます。これを英語では "Movable (移動する) Do (ド)" と表現されます。

「移動ド」方式では、この基調音(第一音)を中心に添え、スケール内の他の音がどのような音程関係にあるかを理解します。これにより、異なる調におけるスケールそれ自体の構造を効率的に把握することが可能となり、演奏や作曲において実践的なメリットをもたらします。特に、移調(曲の調を変えること)のスキル向上や調性認識(現在演奏している調を把握する能力)の習得において、この「移動ド」方式は理にかなった学習アプローチといえるでしょう。

4. C major Scale Movable Keyboard.PNG
3. C major Scale Movable Staff.png
6. G major scale movable Keyboard.png
5. G major Scale Movable Staff.png

音の名前(音名)を表す言葉にはさまざまな種類や言語がありますが、米国では主にC、D、E、F、G、A、Bというアルファベット表記が用いられており、これはドイツ式の読み方から派生したものと考えられます。しかし、アルファベットによる音名は歌唱時の発音のしやすさという点で、必ずしもソルフェージュに適しているとは言えません。そのため、歌いやすさと発音の簡便さを重視し、イタリア式の「ド、レ、ミ、ファ、ソ、ラ、シ」が一般的に使用されています。

また、歌唱中に(シャープ:半音上げる)や(フラット:半音下げる)といった臨時記号を「ド・シャープ」や「ド・フラット」と発音するのは実用的ではありません。さらに、イタリア式ではを「dièsis」、を「bemòlle」と呼びますが、これでは発音が複雑となり歌唱には不向きです。そのため、「ド」も「ド」も「ド」も、最終的にはすべて「ド」と読まれることが一般的です。しかし、この方法では音名を正確に表すことができませんでした。

そこで、アメリカではイタリア式とドイツ式のコンセプトを融合させ、両者の良い部分を取り入れた新しいメソッドが構築されました。この方法では、1オクターブの12音すべてにそれぞれ名前が割り振られることとなり、歌唱や演奏において、音の識別や表現がより明確で容易になりました。

ドイツ式では(シャープ)を表す際に音名の後に「-is」を、(フラット)の場合は「-es」を付けて区別します。これらはアルファベット式の表記、すなわちC, D, E(ツェー、デー、エーと発音される)に適用されるもので、例えば、Dの場合は「Dis(ディス)」、Dの場合は「des(デス)」と読むわけです。

これをイタリア式の音名の読み方に適用したものが米国式です。米国式では、上記のドイツ式でに「-is」、に「-es」を加える方式をイタリア語式に適用させたもので、半音ずつ上昇または下降する音に対して独自の音節(syllables)を割り当てています。例えば、「移動ド」式において、ト長調(G major)のスケール上でDの音は第五音に該当し「ソ(solと書きます)」です。そして、Dにが付いている場合(D)は「sil(スィ)」、Dにが付いている場合(D)は「sel(セ)」と読まれます。このように、米国式では音名の変化に応じてイタリア式の音節を調整することで、半音単位の音の変化を柔軟かつ正確に表現できる仕組みを構築しています。

​これに則ってハ長調半音階 (C Chromatic Scale) を構築すると、上行系の場合は:

7. C Chromatic Ascending Scale.png

また、下行系の場合は次の通りです:

8. C Chromatic Descending Scale.png

ト長調半音階 (G Chromatic Scale) の場合は:

9. G Chromatic Ascending Scale.png

また、下行系の場合は:

10. G Chromatic Descending Scale.png
11. Movable Do Chart.png

移動ド式 (ハ長調,ト長調,へ長調): Movable Do in C, G, and F majors

​歌唱時において、を正確に指し示すことが可能になったことで、1オクターブ内の全12音を明確に表現できるようになり、メロディをより正確に理解しながら歌うことが可能となりました。

さらに、このシステムは発音のしやすさという点でも優れており、音の識別と発音がスムーズに行えるようになっています。その結果、「移動ド式」での学習において最適なメソッドとして採用されています。イタリア式とドイツ式を昇華(アウフヘーベン)させるとは、さすが「人種の坩堝(Melting Pot)」と言われるだけのことはある!

この「移動ド式」アプローチは楽器演奏の際にもメロディの理解を大いに助けます。クラシック音楽では、同型あるいは類似したメロディが転調(modulation)して現れることがありますが、このアプローチを用いることで、調号(key signature)に惑わされることなく、メロディをそのままの形として認識できます。

さらに、ジャズ演奏では、異なる調で書かれたリードシート(コードとメロディのみが記された楽譜)を読みながら移調(transposition)して演奏する場面が頻繁にあります。この米国式の方法は、まさにそのような状況で大いに役立ちます。

調性(今は何調を弾いているか)とその進行(次は何調に移るのか)を柔軟に理解できるため、音楽理論をより直感的に捉えながら演奏に活かすことが可能になります。結果として、移調や即興演奏に必要な適応力が自然と身につき、表現の幅が大きく広がるのです。

ここまでお読みいただき、「難しそうだな」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。でも、どうぞご安心ください。実際にやってみると、それほど難しいことではありません。最初は少し戸惑うかもしれませんが、練習を重ねるうちに自然と身についていきます。まるで新しいゲームを始めるときのようなワクワク感を、きっと味わえるはずです。そして何より、この方法を習得することで、あなたの演奏が一段階、いや、何段階もレベルアップすることでしょう。

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